プレス情報
2020年1月20日 セムズ No.84
検知紙カンタブ🄬による簡易試験キット
「クロキット🄬」を用いた硬化コンクリート中の塩化物イオン量の簡易測定
太平洋マテリアル株式会社 開発研究所機能性材料グループ 長井 義徳
太平洋マテリアル株式会社 営業本部特販営業部 福井 洋介
近未来コンクリート研究会 代表 十河 茂幸
広島工業大学 大学院工学系研究科教授 竹田 宣典
1.はじめに
コンクリート構造物の内部に一定量以上の塩化物が侵入すると、鉄筋等の鋼材が腐食する塩害が生じ、構造物の耐久性に影響する。したがって、適切な維持管理を行う上で硬化コンクリート中の塩化物イオン量の把握は極めて重要である。硬化コンクリート中の塩化物イオン量の測定方法は、「JIS A 1154 硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」が2003年に規格化されたものの、粗骨材最大寸法の3倍以上のコア採取が原則であることや、その際に構造物に損傷を与え内部鉄筋を痛める恐れも懸念される。また、試験調整および分析が煩雑であり試験室での実施が求められることや、分析に際し電位差滴定装置・イオンクロマトグラフ等の特殊な試験装置が必要となることに加え、試験コストや試験結果が速やかに把握できない等の課題もある。これらのことから構造物の損傷を最小限に留め、簡便性・迅速性を備えた効率的かつ合理的な試験方法が求められてきた。
このような背景を受け、(一社)日本非破壊検査協会より2017年9月に「NDIS3433 硬化コンクリート中の塩化物イオン量の簡易試験方法」が制定され、JIS A 1154と比べて簡略化が図られている。
そこで本稿では、豊富な実績を有するフレッシュコンクリート中の塩化物イオン量の簡易測定計(検知紙「カンタブ🄬」)を使用し、NDIS3433に準じた測定キット「クロキット🄬」を取り上げ、その概要と今後のコンクリート構造物の維持管理に向けた適用性を紹介する。
2.検知紙カンタブ🄬による簡易試験キット「クロキット🄬」
2.1 概要 クロキット🄬は、NDIS3433に準じてコア採取によらず少量のドリル削孔粉を試験とすることを前提とし、測定に必要な器具一式があらかじめセットとなっている(写真-1)。測定方法の手順は、乳鉢(棒)により試料を極力粉砕した後、試料調整を要さずに精製水・試薬を用いて塩化物を抽出し、ろ過した液体を用いて、簡易測定計により塩化物イオンを定量化する流れとなる(図-1)。
2.2 クロキット🄬と電位差滴定法の比較試験 各種コンクリートを粉砕した試料を用い、屋外での使用を想定して環境温度を変えた場合の塩分量に関して、クロキット🄬で測定した結果と電位差滴定法による測定結果の関係を図-2に示す。この結果より、フリーデル氏塩を含む全塩分量の測定結果が、環境温度10~30℃において電位差滴定法による測定結果とおおむね符合していることからクロキット🄬の有効性が確認されている。
2.3 NDIS3433の主な項目 「NDIS3433」は、以下のポイントが記載されている。
(1)試験採取による構造物への影響の軽減
①ドリル削孔粉の調整、②小径コアの調整
(2)迅速に試験を行う試料調整(全塩化物イオン抽出)
①有機酸を用いる方法、②炭酸ナトリウムを用いる方法
(3)迅速に行う測定方法
市販の塩分含有量簡易測定器の適用(屋外・屋内を想定)
2.4使用上の留意点 ドリル削孔粉を試料とする場合、適度な間隔(30~50mm程度)で数ヵ所削孔し、得られた粉末を均一に微粉砕することにより、精度向上に寄与するものと考えられるが、骨材の混入状況により誤差が大きくなる可能性があるため、その点が懸念される際は小径コアを採取し、モルタル部の粉体を使用する方法も検討する必要がある。
なお、簡易試験方法の適用が盛り込まれたマニュアルとして、(一社)コンクリートメンテナンス協会より「小規模橋梁の簡易点検要領(案)<令和元年5月>」が発刊されているので参考にされた(図-3)。
3.まとめ
今後、省力化・低コスト化が図られる簡易測定方法が普及することにより、経済的に制約を受ける既設コンクリート構造物の塩害診断においても試験箇所数を大幅に増やせることから、塩化物イオンの浸透状況を簡易に確認することができる。また、劣化の進行が進みJIS法による精密分析を要す箇所の絞り込みにつなぐ事前診断として有効に機能することが期待される。
労働力不足に備えた試験法の合理化・省力化に寄与すべく、今後もクロキット🄬のさらなる迅速化等、商品開発・改良に取り組んでいく予定である。