座談会『鉄筋防錆について考える』
リハビリ工法×電気防食工法
徳納氏
・幅広い技術提供で貢献を
・鍵は不動態皮膜と腐食限界値
江良氏
・再劣化許容もシナリオの一つ
・フォーラムでも普及活動継続
佐野氏
・電気防食はLCCの観点で
・新設・進展期導入でも効果
田中氏
・性能完璧だがコストが課題
・2工法は好相性。コラボ可能性も
わが国における深刻な社会問題となっているコンクリート構造物の老朽化に立ち向かうには、計画的な維持管理の推進に加え、既に補修した構造物の再劣化を防ぐことも重要となる。そこで、本紙では新春座談会『鉄筋防錆について考える』を開催。対策の鍵といわれる鉄筋防錆の主要な選択肢となっている亜硝酸リチウムによるリハビリ工法と電気防食工法それぞれの推進団体の代表者に参加してもらい、協会及び工法の概要や課題、今後の展望等について大いに語ってもらった。
十河 インフラの老朽化はかなり前から喫緊の課題であるとされながらも、実際に補修が追いついていないのが実態としてあります。予算上の問題があるとはいえ、国ですら十分とは言えず、県市に至っては、点検はしても補修は手付かずといった状態がほとんど。今後ますます老朽化した構造物が増え、対応が後手後手になることも予測されます。今回の座談会では、その中でかなり重要となる鉄筋防錆に有効な亜硝酸リチウムによるリハビリ工法と電気防食工法について議論していただきます。それでは、徳納さんから。
徳納 (一社)コンクリートメンテナンス協会は、約25年前に設立した広島県コンクリートメンテナンス協会が母体です。当時、塗装専門だったわが社にとって当時は厳しい時代で、専業だと会社が潰れると思ったのがきっかけ。その頃に亜硝酸リチウムに出会いました。ただこの薬剤、材料は良いが工法はお粗末で、「塗れば直る」と言われても実際はそうではなかった。全国で同時期に始めた会社もほとんど撤退する中、われわれは失敗して役所にお叱りを受けることを繰り返すうちに、段々と失敗しない工法を確立することができました。その後、平成23年に一般社団法人化して全国展開し、会員も約110社にまで増えた。元々は亜硝酸リチウムの協会ですが、代表的な活動である「補修・補強フォーラム」では、特定の技術に偏らず、幅広い技術を紹介し、鉄筋防錆とASR対策を定量的に推進する協会として、社会資本維持の一翼を担えればと考えています。
十河 リハビリ工法は昨年、表彰も受けられましたよね。
徳納 中国経済産業局のニュービジネス大賞です。銀行の薦めで軽い気持ちで申し込んだものが、実はすごい賞だと驚きました。このことで強調したいのは、コンクリートの補修が大きなマーケットであることを国土交通省だけでなく経済産業省も認めたということ。重要性を社会が認知したと言えるのではないしょうか。
十河 亜硝酸リチウムだけでなく名前の通りメンテナンス全般を視野に入れ、大きな視点で頑張ってもらえればと思います。江良さんは工法の中身についてお願いします。
江良 まず、亜硝酸リチウムは当初、表面に塗ることで「塩害に効きます」「ASRに効きます」といった謳い文句でスタートしましたが、全部再劣化してすごく怒られたという苦い歴史があり、その反省が現在の工法につながっています。当工法の鉄筋防錆のメカニズムは、亜硝酸リチウムの中の亜硝酸イオンが鉄筋の不動態皮膜を再生し、防錆するというものですが、そのためには鉄筋まで亜硝酸イオンが届かないと意味がない。つまり、塗って浸み込ませるには限界があったんです。確実に鉄筋の腐食を抑制するには、必要な量の亜硝酸イオンを鉄筋まで送りこむ必要があります。そこで最終的にたどり着いたのが、穴を開けて亜硝酸リチウム水溶液を加圧注入する方法。これがニュービジネス大賞を受賞したリハビリカプセル工法です。また、ここに至るまでの試行錯誤で表面被覆、表面含浸、ひび割れ注入、断面修復など色々な使い方も生まれました。圧入以外は、本来の補修工法に亜硝酸リチウムを足すことで、レベルを上げるというものなので、鉄筋腐食を絶対止めるとまでは言えない。いずれ再劣化しますが、再劣化すれば再補修を繰り返すという維持管理シナリオも「あり」だと考えています。亜硝酸リチウムを加えることで、鉄筋腐食の抑制効果がプラスされ、再劣化までの期間が長くなれば、補修回数が減らせて社会資本のために役立つはず。構造物には色々なグレードがあって、100%防錆しなくてはいけない構造物にはそれなりの工法が必要だし、そうでないものには、一般的な補修工法にプラスする形での亜硝酸リチウムの使い方もある。使い方全体を含めた提案、これがわれわれが得意とする工法の全体像です。
十河 では、次に日本エルガード協会の紹介をお願いします。
佐野 電気防食工法の歴史は長く、コンクリート中の鉄筋や鋼材防食に最初に取り組んだのはアメリカ。その技術を日本に導入し、推進しているのが日本エルガード協会、あるいはCP工法研究会(電気化学的防食工法研究会)です。日本エルガード協会は、外部電源方式による電気防食工法の約8割を占めるエルガードシステムの研鑽と普及を二本柱に平成13年に設立し、現在29社で活動しています。原理的に鉄筋の腐食を止めることができる唯一と言ってもいい技術ですが、構造物に電気を流すことへ不安や認知度の低さ、また価格競争に弱いこともあって、これまでの実績は約21万㎡と期待するほどには伸びていません。ですが、電気防食工法は極論すれば鉄筋が錆びていようと塩分があろうと、適切な電気を流せばその時点で腐食を止められるし、陽極の耐久性も100年は持つ。初期コストだけでなく、LCCの観点から考えてもらえれば決して高いものではないのですが、このことを理解していただくための研究、工法活動にも取り組んでいます。
十河 それでは技術について、田中さん。
田中 電気防食工法やリハビリ工法は、塗装や塩分除去など物理的に何かを除去する従来工法に比べ、化学や電気化学を取り入れて直接佐用することが最大のポイントです。ドラえもんで例えると、のび太くんがいじめられている(=塩害)とすると、いじめの要因であるジャイアンを転校させたり、ドラえもんが守ることが従来工法。対して、のび太くん自身を強くすることが電気防食工法とリハビリ工法で、筋肉増強剤的に強化するのがリハビリ工法、そのものを受け付けなくするのが電気防食工法です。特に電気防食工法は、防食電流を与えることで腐食を完全に止める、ある意味究極の工法といえます。コンクリートでの歴史は20年程度ですが、海中の鋼管杭などには以前から利用されていて、瀬戸大橋や海遊館、ゲートブリッジなどにも使われています。
十河 鉄筋コンクリート内部の鉄筋状態はわかりにくく、相当腐食が進まなければ表に症状が出てこないことが最大の難点で、「表面に出てきたら何とかしよう」というのが一般的ですが、鉄筋腐食が構造的な安全領域を超えている場合、2工法でも無理という認識で良いですか。
一同 はい。
十河 どちらも多少コンクリートが腐食膨張していても、そこで止めることで構造物の安全性を担保する工法で、ある程度の再劣化を認めながら延命化を図ろうというリハビリ工法と、メカ的に解決する電気防食工法という理解で良さそうですね。それでは、まだ鉄筋が錆びていない「潜伏期」への活用など、適用範囲の話をお願いします。
江良 塩害の「潜伏期」は、鉄筋の不動態皮膜は破壊されていないが、将来的に外的要因で塩化物が入る場所ということなので、従来の表面含浸でも良いと思いますが、亜硝酸リチウムを併用し、塩化物イオンが入る前に亜硝酸が鉄筋に到達すれば、少ない薬剤で防錆効果が発揮されます。また、錆びてはいるがひび割れが入っていない「進展期」は、通常の表面含浸だと不十分。亜硝酸リチウム入りの表面含浸を行うことで、腐食膨張でひび割れが入る前にそれ以上の腐食を抑制し、ひび割れが入らない状態で維持できます。
十河 中をいじらず、外から対処できるということですか。
江良 はい。鉄筋が錆び、腐食膨張圧でひび割れが入ったら「加速期」となりますが、この場合はひび割れを通じて亜硝酸リチウムを直接送り込み、エポキシ等で蓋をします。さらに悪化し、コンクリートが剥落した状態になれば断面修復となり、亜硝酸リチウムを直接塗り、ポリマーセメント等で修復します。問題なのは、「加速期」前前期~後期となり、広い範囲でひび割れ、浮き・剥離が生じ、塩分もたくさん入っている状態。その場合は、塗っても追いつかないので、穴を開けて亜硝酸リチウムを圧入し、鉄筋のまわりにきっちり入れてあげれば、不動態皮膜を再生させることができます。このように、「潜伏期」~「加速期」後期までは亜硝酸リチウムの使い方を変えながら対応できますが、鉄筋がやせ細り、耐荷性能が落ちる「劣化期」となったらもう手遅れ。補修だけでは留まらなくなるので、絶対に「劣化期」に行かせるべきではありません。
十河 ステージに応じたメニューを用意しているということですね。課題はありますか。
江良 「潜伏期」、「進展期」に普通のシランを塗っていた従来工法に比べ、亜硝酸リチウムを入れる手間とコストがプラスされることになりますが、その必要性が理解されないことがあります。要は鉄筋腐食のメカニズムがわかっていないんですが、「ひび割れがなければ何もしなくて良い、入っても注入すれば良い」のような安易な考えはまだ残っています。その考えの延長線上にいるので、亜硝酸リチウムを入れたり、電気防食をかける理由がわからないのかもしれません。
十河 管理者が延命化のコストパフォーマンスをどう考えるか、ということですね。技術的な部分はある程度解決できたという理解でいいですか。
江良 そうですね。発注者に補修後の構造物をどう維持管理していくか