プレス情報
2021年7月12日 セメント新聞
JIS順守「逆効果も」 より信頼される業界に
十河氏基調講演
オンラインで生コンセミナー復活
JCI名古屋大会2021・生コンセミナー報告(上)
日本コンクリート工学会の年次大会2021(名古屋)が7~9日、オンライン開催された。今回で第28回を数える生コンセミナーは従来通り、初日の13時から行われたが、初のオンラインセミナーとなることなどから時間は従来の半分の2時間に短縮され、近年恒例となっていた会場の参加者を含めた討論会は行われなかった。今回のテーマは「良いコンクリート構造物の施工のためにより良い生コンの製造を考える」。冒頭、趣旨説明を行った生コンセミナー部会長の犬飼利嗣岐阜工業高等専門学校教授は、「ひとくちに『より良い生コン』といっても、製造や施工など立場が違えば、『より良い』の意味も異なる。本セミナーでは立場を越えて共通認識を醸成することで、今後のより良いコンクリート構造物の実現に寄与したい」とした。270人超が参加した。
前半では1件の基調講演と4件の話題提供が行われた。後半は犬飼部会長を司会に、講演・話題提供した5人がテーマに沿って討論を行い、その模様をライブ配信した。
全体を通して主要なテーマの一つだったのが「生コン製造と施工者(および設計・発注者)の連携の重要性」。ただ、これは近年の生コンセミナーではほぼ毎回強調されているテーマであり、それでも状況があまり改善していない現実を反映している。
もう一つの重要テーマは「JISにとらわれない生コン、JISを超える生コン」であり、これも以前からたびたび登場したテーマではあったが、今回はJIS A5308の位置づけや役割、個々の規定についてより具体的な問題提起がなされた。
このほか、生コンの環境対応の重要性に触れる講演者も多かった。
基調講演は十河茂幸近未来コンクリート研究会代表が「良いコンクリートの製造を考える!」をテーマに行った。十河氏は「一向に減らないコンクリート構造物の不具合に対して、生コン製造現場でできることはないか考えた」と述べ、建設現場で発生頻度が高い不具合のうち、乾燥収縮ひび割れ、沈みひび割れ、コールドジョイント、温度ひび割れなどを取り上げ、それぞれについて発生原因を説明。多く場合で施工による対策では不具合を防ぎ切れず、生コン製造側の協力が不可欠であることを示した。
その一方で、現行のJIS規格や生コンの製造システムはこうした不具合を防止する態勢とはなっていない。たとえば「乾燥収縮ひび割れに対して、単位水量による対策は十分でなく、収縮率の小さい材料を使って生コンを製造することが有効だが、使用材料はほぼ生コン工場まかせとなっている。また、沈みひび割れの場合、ブリーディングを抑制しないかぎり型枠面での沈みひび割れは防ぎ切れないが、そもそもJIS A5308にはブリーディング率や量の規定がない」などと指摘した。
そのうえで十河氏は、「JIS規格を守ることが果たして良いコンクリートを作ることにつながるのか」と問題提起する。「むしろJISの順守が逆効果になるケースもある。とくに現実的に、JIS規定にある『協議事項』を有効に使えていない現状があるため、不具合につながる可能性が高い生コンでも『JIS規格さえ満足していればいい』となる。生コンJISの品質保証が『荷卸し時点まで』となっていることも大きな問題だ。たとえばJISでは荷卸し時点の空気量が規定されているが、圧送時に空気量が減少する場合がある事を考えると、構造物が十分に対凍害性を確保できる規定にはなっていない」とした。
十河氏はまとめとして、「構造物の不具合の原因の一部が生コン製造にある可能性がある。施工者と生コン製造者がしっかりと協議して不具合を減らし、より良い構造物を作っていく事ができれば、生コン業界もより信頼される業界となるはず」と述べた。