プレス情報
2021年7月19日 セメント新聞
JCI名古屋大会2021・生コンセミナー報告(中)
JCI規定は「最低限」
社会の変化に対応を
日本コンクリート工学会(JCI)の年次大会の生コンセミナーでは十河茂幸近未来コンクリート研究会代表による基調講演に続いて、➀上東泰氏(中日本高速道路技術・建設本部専門主幹<橋梁担当>)が事業者の立場から、➁岩清水隆氏(竹中工務店大阪本店技術部専門役建築技術グループ)が施工者(建築分野)の立場から、➂桜井邦昭氏(大林組技術本部技術研究部生産技術研究部主任研究員)が施工者(土木分野)の立場から④吉兼亨氏(元全国生コンクリート工業組合連合会技術委員長)が生産者の立場から、それぞれ話題を提供した。
上東氏は宮川豊章京都大学名誉教授の有名な言葉にアレンジを加え「丈夫で、美しく、長持ちし、環境に優しい」のが「良いコンクリート構造物」との考えを述べ、高速道路のコンクリート構造物の施工に伴う問題は山間部での施工が多いことと、構造物の規模や部材断面が大きく、配筋も過密となることに多く起因すると説明。
「山間部の現場までは生コンの運搬距離が長く、交通状況の影響も受けやすくなる。また現場でも圧送距離が長くなることが多い。生コンプラントと連携・情報共有して適切な運搬計画を立て、交通状況などの環境変化に対応できるようにしておくことが施工のカギとなっている」
一方で、高速道路のコンクリート構造物の劣化状況をみると、大半が豆板やかぶり不足など初期欠陥に起因しており、とりわけ暑中コンクリートが初期欠陥につながるケースが多いと説明した。
施工者と生コン製造者の「意識」に注目するのは岩清水氏。「なにが良いコンクリートかは、施工する対象ごとに異なるので一概には言えない。とくに建築分野ではコンクリートに求められる性能は多種多様となる。ただ、『ワーカビリティー』はすべてに共通して必要な性能。しかし、JIS A5308には『ワーカビリティー』の概念がなく、施工者と製造者の意識のずれにつながっているのが現状ではないか」
同氏は「誤解のないように申し上げるが、私はJIS A5308や生コン工場の品質管理監査制度を高く評価している。地方でも一定以上の品質の生コンをいつでも調達できるのは、これらのおかげた」としつつ、「JISコンはあくまで必要最低限の品質を満足しているだけであり、施工者が望むコンクリートとは乖離していることも多い」と指摘。
そのうえで施工者と生コン製造者に今後求められる取り組みをあげ、両者の連携や協議、情報共有のほかに、施工者には「JISマークが必要不可欠であるという考え方を排除する」「発注すれば望んだコンクリートが納入されるという考え方は排除する(生コン工場に伝えなければわからない)」ことを求めた。
他方、生コン製造者には望まれている性能を満足するためにはJIS外の調合にも対応できるようにし、「JIS A5308の規定を満足していれば良いという考え方を排除する」ことなどを求めた。
土木分野の施工者から話題提供した桜井氏は、生コン業界を取り巻く環境の変化に触れ、「これまでと同じことをしていてはこれまでと同じ品質の構造物を造れなくなる」と危機感を表明。具体的には、➀工場数の減少に伴う運搬の長時間化➁暑中期の長期化・酷暑化➂建設現場の労働者不足などの状況から、今後の生コン施工では「流動性の低下への対策」と「新技術・ツールの活用」が必須になるという。
こうした状況から、生コン工場に対してスランプフロー管理の生コンを標準化したりデジタル技術を積極的に活用したりするよう期待し、「時代に対応し、新技術を率先して取り入れるなど、変わり続ける生コン業界であってほしい」とした。
最後に話題提供した吉兼亨氏は、生コン品質の安定化において極めて重要な意味を持つ「骨材粒度の安定化」について説明し、低コストで設置できる粒度分離防止装置を導入した「ニュープラントシステム」の概要などを紹介した。
この後、犬飼利嗣部会長、十河氏も含めた6氏が「良いコンクリート構造物を施工するためのより良い生コン」について討論した。 (続く)