プレス情報
2022年2月24日 コンクリート新聞
続・生コンセミナー
JCI中部
立場越え共通認識を
「良いコンクリート」テーマに
日本コンクリート工学会(JCI)中部支部は10日、オンライン形式で続・生コンセミナーを開いた。昨年7月にJCI年次大会で開催された「生コンセミナー」では聴講者との討論が少なかったことから、年次大会で確認した「発注者、施工者、生産者の立場の違いによる『良いコンクリート構造物の施工』の定義」を深掘りする狙いで企画した。登壇者は年次大会と同じメンバーが揃った。
基調講演は近未来コンクリート研究会の十河茂幸代表(前広島工業大学教授、元大林組技術研究所副所長)が「良いコンクリートの製造を考える」の題で行った。生コンが一因となって生じる不具合については①初期ひび割れ(乾燥収縮、温度)②沈みひび割れ(ブリーディングの発生に伴う沈下)③豆板(材料分離に伴う空洞など)④コールドジョイント(凝結時間の制御など)⑤凍害などの劣化(空気量の制御など)をあげた。沈みひび割れにはブリーディング量の規定が必要といった、それぞれの対策案を紹介したうえで、「不具合の発生を抑制するには、生コンJIS(A5308)の順守だけでは逆効果になる可能性もある」(十河氏)として、JISに記載されている協議事項の活用などを求めた。
事業者から中日本高速道路の上東泰氏、施工者から竹中工務店の岩清水隆氏(建築)、大林組の桜井邦昭氏(土木)、生産者から元全国生コンクリート工業組合連合会技術委員長の吉兼亨氏がそれぞれ話題を提供した。上東氏は高速道路の構造物は山間部に多く、規模や部材断面が大きくて配筋が過密になりがちであることを紹介。また、カーボンニュートラル(CN)実現に向けた動きなどを踏まえ、京都大学の宮川豊章氏が提唱する「丈夫で美しく、長持ちするコンクリート」に「環境にやさしい」を加えたものが、事業者にとって良いコンクリートであるとした。
岩清水氏は、建築の場合、適用する部位や工法などによって、高強度、高流動コンクリートなどを使うことから、「良いコンクリートの定義が条件によって変わる」とした。施工者と生コン製造者の認識の違いを埋めるため、従っている標準仕様書を事前に伝えて「JISマークが不可欠であるとの考え方を排除する」ことも必要と訴えた。桜井氏は、土木分野で使われる生コンは数量が多く、スランプの小さい硬練りが多いことを紹介。また、生コン工場の減少による運搬時間の長時間化、職人の減少に伴う生産性の向上がカギになるとした。
吉兼氏は定量化されていない生コンのワーカビリティの可視化や、運搬時間については、「拘束時間が長くなれば、運搬効率が悪化するため往復の所要時間に応じた価格体系も必要」とした。また、35年前に自身が関与した再生セメントの製造方法などについて説明した。
その後、生コンセミナー部会長の犬飼利嗣氏(岐阜工業高等専門学校教授)をコーディネーターに、十河氏と話題提供者らが討論に参加した。豆板、乾燥収縮について岩清水氏は「混和剤の品質向上により豆板が発生することはほぼない。乾燥収縮についても石灰石骨材や高性能AE減水剤などとの一液型になっている収縮低減剤の利用でかなり減っている」と紹介。一方で十河氏は、骨材の品質改善の影響に加え、乾燥収縮については石灰石骨材が入手しづらい地域があることなどについて指摘した。これに対し、岩清水氏は、膨張材やフライアッシュなどを標準化していない工場からの出荷がある場合、竹中工務店では設計事務所に依頼して設計変更や特記仕様書への記載、建築基準法の第37条2類の規定に基づき、「JIS同等品」として施工していると回答した。
運搬時間については、十河氏が極端な例として、「生コンJISに荷卸し地点までの時間制限は不要では」と提案。吉兼氏は、下記と冬季では同じ運搬時間でも性状が異なることから、「(運搬時間の制限がなくなるのであれば)夏季に限定した対策にすればよい」とした。
スランプロスについては、上東氏が、昨今は設計コンサルタントも現場の事情を知らない人が増え、スランプ血を変更しなければいけないことをよく理解していない人が多いと指摘。桜井氏も「まだ施工側の判断だけで設計時のスランプ値を変えにくい」と述べた。
犬飼部会長は、より良いコンクリートはJISに依存せず、相互理解を深める必要があるとし、「施工者がJIS以上に求める要件を開示する環境を作っていくことがより良いコンクリート構造物の施工につながる」とまとめた。