プレス情報
2022年3月7日 セメント新聞
JCI中部支部が「続・生コンセミナー」開催
再び、より良いコンクリートとは?
日本コンクリート工学会(JCI)の中部支部は2月10日、「続・生コンセミナー」をオンライン開催した。昨年7月のコンクリート工学年次大会2021(名古屋)における生コンセミナーがオンライン開催となり、同セミナーで恒例となっていた会場の参加者とのディスカッションに重点を置く予定だった。結果として、新型コロナの影響から今回もオンライン開催となったものの、名古屋市内のリアル会場で「より良いコンクリートをより深く考える」をテーマに行われたパネル討論では熱を帯びた議論が交わされた。登壇者は昨年7月と同じ十河茂幸(近未来コンクリート研究会)、上東泰(中日本高速道路)、岩清水隆(竹中工務店)、桜井邦昭(大林組)、吉兼亨(元全国生コンクリート工業組合連合会)の5氏とコーディネーターの同セミナー部会長の犬飼利嗣氏(岐阜工業高等専門学校)。主な議論を紹介する(以下敬称略)。
施工、設計と連携を不具合「やむを得ない」
犬飼 話題提供では良いコンクリート構造物を造るうえでの課題として建築・土木に共通して豆板の問題があげられた。
岩清水 十河先生の発表では、不具合の発生確率でマンションにおけるコールドジョイントが非常に多いとなっていたが、このデータは2008年のものでだいぶ古い。実際には、コンクリートは当時より相当変わってきている。
09年に日本建築学会近畿支部で、暑中期のコンクリートの受け入れ時の温度を35度から38度にしようと大々的に実験を始めたのだが、貫入抵抗試験等を相当数繰り返すなかで、生コン工場サイドでもどういう調合であれば38度でもコールドジョイントができないかがわかってきた。
同時に、コンクリート自体の品質も良くなってきており、とくにふるいが高性能となったためか、粗骨材の最大寸法が昔に比べてだいぶ小さくなっている。加えて、高性能AE減水剤の進歩もあり、現在ではコールドジョイントも豆板も非常にできにくい。
建築分野で一番大きな問題であるひび割れについても同様だ。JASS5で乾燥収縮率が規定されたのは10年以上前のことになるが、それ以降は生コン工場側も気を遣うようになって、骨材を工夫したり、協同組合で定期的に全工場の乾燥収縮試験を実施したりしてきた。混和剤でも収縮低減タイプや一液タイプが広がり、現在では壁面に関してはひび割れで問題になることはほとんどない状況となっている。
十河 確かに生コンは相当改良されてきた。JISでもフロー管理タイプが規定され、石灰石細砂を使うことで収縮もかなり低減できる。
しかしながら、土木では荷卸し地点の目標スランプ12センチを守らざるを得ないことが多いので、フロー管理タイプもなかなか使えない。石灰石骨材も使えない地域はある。つまり、まじめにやっていても、コールドジョイントや豆板が出ることがやむを得ないという状況が現実にはある。やはり製造と施工がしっかり連携をとらないとうまくいかないだろう。
吉兼 不具合の低減につながる「ワーカビリティがいいコンクリート」とはどういうものか、製造者と施工者のあいだでまだ共通認識ができていないことが問題だ。
上東 製造と施工の連携の重要性はもっともなのだが、もう一つの視点として設計の問題もある。
たとえば土木構造物の場合、橋は下部工がコンサルにより詳細設計された段階で発注される。上部工の詳細設計は物件を取ったゼネコンが行う流れになる。
その下部工だが、最近地震対策として以前にもまして過密配筋が多くなっている。とくに中間拘束筋が増えていて、これではコンクリートはなかなか打てない。コンサルでも現場経験のない方が非常に多く、過密配筋でもそのまま考えずに図面にしてしまうところに問題がある。
桜井 やはり生コン工場側ではコンクリートに関して高度な知識をお持ちだ。他方、施工側の人間はコンクリートの専門ではないことがほとんどなので、規格・基準類の数字をただうのみにするといった状況になりがちだ。運搬時間、スランプ、単位水量など、ややもすると施工現場では、「数字だけ見ておけばいい」「JISだから一緒でしょ」といった発想になる。
十河 生コンは「荷卸し地点で90分」となっているが、この基準は必要なのか。
90分を超えたら凝結の問題があり、コールドジョイントにつながるということだが、これはあくまで施工者側の問題。荷卸し時間の制限はいらない。むしろ打ち込み完了までの時間を決めればいいわけで、それには土木学会も建築学会も一応の標準値を決めている。
吉兼 生コンを巡るいろいろな条件が変わってきているので、ユーザーも生コンも含めて、ルールを見直していく必要がある。
ただ、たとえば暑中コンでは、一律で「何度まで」などと決めるのではなく、もう少し流動的に判断できるような工夫もいれていかなくてはならないと思う。運搬にどうしても時間がかかるとき、あるいは猛暑期に運搬するときは、このような対策を立てるべきだ、といったこともはっきり示した方がいい。そうすれば設計者も意識して設計できるようになる。
十河 ぜひそのような方向で検討を加えていただきたい。
事前の情報共有がカギ 「幅」ある標準化を
十河 生コンJISの在り方自体も少し考えなくてはいけないのではないか。ローカルルールが使いにくいところに大きな問題がある。製造者が「JISさえ守ればいいんだ」といった発想になりやすいことに、不具合が出る原因があるのではないか。
桜井 生コン工場が地域の状況や課題などに応じて、施工者と協力して柔軟に対応しようとした場合、すぐに「JIS規格外」となるようでは問題だ。
岩清水 私は「JIS規格外」という意味がよく分からない。JISマークがついていなくても、JISの品質を満足しているコンクリートであれば、公共建築工事の仕様書の「Ⅱ類」という扱いで、施工していいことになっている。
JISの品質を満たさないような「規格外」であれば建築基準法違反になるが、JISマークがなくてもJISと同等の品質を有しているコンクリートであれば、普通に受け入れている。
ただ特記仕様で「Ⅰ類」と指定されていたり、なにも指定がなかったりすると、「Ⅰ類」すなわちJISマークがあるコンクリート限定になってしまう。当社では、もう特記仕様の段階で「Ⅰ類またはⅡ類」と書いておいて、どちらも使えるようにしている。
上東 コンサルタントでも「JISによっておけばいい」と考える方が多い。「Ⅱ類」があることを知らない方も実は多い。製造者と施工者はそういうことを外に対して言っていかなくてはならないだろう。
たとえばJCIなどでコンサルタントを対象とする教育の場を作っていくことも有効ではないか。打設は夏場を想定しているのか冬場を想定しているのか、それぞれのケースでどのようなことに配慮すべきかなど、より良いコンクリート構造物を造るために必要な設計の考え方を指導してほしい。
犬飼 生コン品質への期待は。
十河 本来は性能規定であるべきだと思うが、性能規定と仕様規定の両方が混ざっているのが現状の生コン規格。せめて、ブリージングの規定は欲しい。
また、土木学会では材料分類抵抗性を粉体量の規定では盛り込んだが、JISではまだ規定がない。生コンJISにはもう少し学会の動きを考慮してもらいたい。
吉兼 やはり第一歩は、製造者と施工者が「ワーカビリティのいいコンクリート」について共通認識を持つことだと考える。ワーカビリティにはいろいろな要素が入っているが、それらを可視化して共通認識が得られれば、生コンをよくするために何をしたらいいか製造者側も考えるようになり、「JISに合致しているからいい」とはならない。
岩清水 ブリージングの問題は乾燥収縮と似たところがあると感じる。
設計者は乾燥収縮の目標値を決めるが、骨材の地域特性の影響が非常に大きいことなどは知らないことが多い。ひび割れに対する対策が設計で配慮されておらず、施工する段階になって「このままだとひび割れが入る」「どうしたらいいのか」といった話になる。
しかし、この段階で対策を取ろうにも、m
3あたり4~5000円のコストアップになったりするので、「とてもできない」となる。
当社は設計施工が多いので、だいたいの地域の骨材の乾燥収縮率をすでに把握している。設計では事前に対策を盛り込んで、顧客には地域の事情により生コンのコストが上がることに了解をいただいている。
やはりいろんな人に問題を知ってもらうことが重要。とくに建築の場合は設計時点でお金が決まってしまうので、生コン業界には地域や各工場の乾燥収縮率をもっとオープンにするよう以前から要請してきた。こうしたことが公になっていないと、設計段階で盛り込めない。
ブリージングに関しても同様に、各生コン工場が情報をオープンにするようになれば、事前の対策につながっていくだろう。
吉兼 製造者側も、何もかもJISでなければできないと、凝り固まった姿勢ではいけないと思う。規格の運用に当たっては、ユーザーニーズに合わせるために「ある程度の幅」を見てもらう必要もある。
たとえば緊急性を要する対応で、標準化の認定を受ける時間的余裕がない場合、「仮の標準化」のような形で生コンを出荷し、次回の審査のときなどに「こういう対応のためにこういう配合を出しました」と事後報告するような形も考えられるだろう。
犬飼 最後に、より良いコンクリート構造物の実現に向けて提案を。
十河 まずは荷卸し地点で仕事をするのではなくて、良いコンクリート構造物を造る、耐久性の高いコンクリートを造るという認識に立って、製造者、施工者、設計者、発注者が連携することが大事だと改めて感じた。
上東 連携がすべてだ。
岩清水 私も連携が大事とずっと言ってきたが、それには裏の理由もある。現在、施工現場の作業員が書類に追われたり時短で残業ができなかったりして、コンクリートに関する知識がどんどん薄れている。生コン工場、販売店、試験代行業者には、施工者との壁をなくして、これからどんどん助けていただく事が必要になる。
桜井 生産者、発注者、施工者の三位一体、情報共有しながらいいものを造ろうという意識が一番大事。とはいえ、環境も人間構成も変わっていくので、状況に応じた材料、技術を吸収して活用していくことも重要。
吉兼 やはりワーカビリティについてユーザーと生産者が共通認識を持つことが大事だと考えている。