プレス情報
2024年1月 JCM REPORT
新コンクリートのはなし
第10回 劣化を抑制するための補修方法
近未来コンクリート研究会 代表 十河茂幸
コンクリートが劣化すると、剥落や崩落が生じ危険となります。そうなる前に補修をして延命化を図ることが重要です。脱炭素社会にするためにも、インフラの維持管理を適切に行い、長時間継続して供用することが望まれま す。今回は、劣化した構造物の適切な補修方法について解説します。
■劣化の程度で補修方法を選定 コンクリート構造物の劣化の症状としては、ひび割れが発生するのを見て判断できます。しかし、ひび割れが生じる前から劣化は進行しています。その段階で判断できると対策も容易ですが、劣化に伴って生じるひび割れが発見されると、ひび割れを補修すればよいだけではなく、劣化を止めなければなりません。劣化の程度で補修方法を選択することが必要です。
図1は、塩化物イオン濃度が限界を超えた構造物や、中性化による影響を受けた構造物に対する補修方法の選定のフローです。潜伏期、進展期、加速期、劣化期(新コンクリートのはなし 第9回 図2参照)のそれぞれで選べる工法が決まります。
■鉄筋の腐食を防止する亜硝酸イオン 鉄筋の腐食は、鉄筋周辺の不動態皮膜の破壊で始まります。この不動態皮膜を再生してくれるのが亜硝酸イオンです。(図2参照)。亜硝酸イオンは亜硝酸リチウム水溶液により付与することができます。亜硝酸リチウム水溶液を表面から含浸させる工法や、ひび割れから注入する方法、さらには削孔して圧入する方法などが考えられます。劣化の程度と維持管理の方法、つまり確実に腐食を止めるか、点検してその都度抑制する方法とするか、維持管理シナリオを考慮して補修の方法を選択することになります。
■維持管理のシナリオはLCCで考える 構造物の延命化を考えると、計画供用期間がはっきりしているといいのですが、いつまで構造物を使い続けるかははっきりしないのが一般的です。100年間供用するつもりでも、50年で架け替えが必要となったり、50年間の供用のつもりが延長せざるを得なくなったりすることは往々にしてある話です。ところが、補修方法は計画供用期間で定めなければなりません。LCC(ライフサイクルコスト)を考えて補修をしても、変更がある可能性があれば、その都度補修して経費を抑える方法も検討に値すると考えられます。
■構造物の延命化は脱炭素と考えられる 近年、カーボンニュートラルが持続可能な社会に必要と提言されています。脱炭素社会は、最近の災害を鑑みても喫緊の課題と言えます。そのためには、せっかく造られたインフラを延命化することこそ重要と考えられます。しかも、延命化のための補修方法についても脱炭素の観点から考えることが必要です。
【参考文献】
1)コンクリートメンテナンス協会編:コンクリート構造物を対象とした亜硝酸リチウムによる補修の設計・施工指針(案)、2020年4月